オフィシャルブログ

月別アーカイブ: 2025年9月

中野防水のよもやま話~下地調査と雨漏り診断(目視・打診・含水・赤外線・散水)🔍🌧️🧪~

皆さんこんにちは

中野防水の更新担当の中西です。

 

調査のゴールは「原因の一次仮説を立て、再現性で検証し、是正案を図と数値で示す」こと。勘と経験だけに頼らず、段取りと記録で再現性を担保します。

 

1. 調査の原則と考え方
• 上流から下流へ:屋根→立上り→端末→面→ドレン→室内の順。先に室内だけ止めても本質的な解決にならない。
• 面・線・点の分解:面(床・屋根)/線(目地・取り合い)/点(ドレン・貫通)を分けて仮説化。
• 再現性:散水・採水・温湿計・含水計の値で“ビフォー/アフター”を比較し、因果関係を示す。
• 安全最優先:高所・感電・滑落・火気・居住者動線。調査そのものがリスクにならないように。

 

2. 事前ヒアリングと資料収集 
• ヒアリング:いつから/どの雨(強風・台風・長雨)/どこに症状(天井・壁・サッシ)/季節性/時間差(雨後数時間)⏱️
• 資料:平立断の図面、過去の修繕履歴、保証書、赤外線・散水の過去結果、サーモ画像の原データ。
• 環境情報:建物方位、近隣高層の風影響、海岸・寒冷・多雪、屋上利用(歩行・荷重)。
コツ:居住者のスマホ写真・動画は宝の山。Exifの日時と天気(気象庁履歴)を突き合わせ、雨種(積乱雲のスコール/台風の横殴り)を同定します。

 

3. 調査計画(ITP:Inspection & Test Plan)
1. 仮説A:立上り折り返し不足+滞水 → 散水1:立上り→床→ドレンの順で15分区切り。
2. 仮説B:サッシ下端からの負圧吸引 → 散水2:風下想定でサッシ上部から順灌水。
3. 仮説C:ドレン鉛直継手のピンホール → 散水3:ドレン鉛直のみ局所散水+着色水。
• 計測・記録:温湿度、表面温、含水率、写真(広角→寄り)、動画(滴下・流路)。
• 合否基準:症状部での滴下再現/含水率上昇/サーモの温度差出現/散水停止後の遅延反応。✅

 

4. 目視・触診・打診(一次スクリーニング)
• 目視:ひび割れ(静的/動的)、ピンホール、チョーキング、膨れ、端末剥離、重ね代、溶着ビードの連続性。
• 触診:立上り端末の浮き、シールの硬化・三面接着、下地の柔らかさ(含水・腐朽の兆候)。
• 打診:中空音=脆弱下地/浮き。タイル・モルタル・押えコンクリートで有効。
記録テンプレ:A3図面に「赤=劣化、青=推定水みち、緑=調査済」を色分けし、通し番号(#001〜)で写真と連携。

 

5. 含水調査・計測機器の使い分け
• ピン式水分計:木部・石膏ボードなどの相対比較。仕上げを傷つける可能性。
• 非破壊式(電磁波):床・壁の相対的な分布把握に有効。膜厚や金属で誤差。
• コア抜き・採水:最終手段。位置と復旧の合意を事前に。
• 温湿度・風速:散水時の条件ログ。台風時の再現は難しいが、負圧箱や送風で傾向を作れる場合あり。

 

6. 赤外線サーモグラフィの使いどころ
• 原理:含水部は蒸発冷却・熱容量差で温度分布が変わる。朝夕の温度勾配が出る時間帯が最適。
• 撮影条件:
o 直射日光の反射を避ける(早朝/夕方)。
o 風速が低い日(風で表面温が均される)。
o エミッタンス:塩ビ・ゴム・ウレタン・FRPで0.90〜0.95を目安に設定。※機種により名称差あり。
o 温度差(ΔT)5℃以上が望ましい。
• 誤判定あるある:
o 塗り重ね差・色差→温度差に見える。
o 直射で温められた笠木・金物の反射。
o 風下面の“陰”が冷たく映る。
• 判定のコツ:サーモだけで断定しない。含水計・散水の反応と突き合わせ、水みちの連続性で見る。

 

7. 散水試験の組み立て(再現性が命)
• 準備:
o 養生(室内・電気設備・配線)。
o 2人以上の体制(散水担当/記録担当)。
o タイマー・無線・着色剤(食紅系)・紙テープ(散水範囲マーキング)。
• 順序:
1. 最上流(立上り・笠木)から15分。
2. 取り合い(サッシ・目地)15分。
3. 面(床)→ドレン周り15〜30分。
• ポイント:
o 一度に広く濡らさない(原因特定が曖昧に)。
o 反応が出たら即停止し、範囲を絞って再現。
o 雨後の遅延(数十分〜数時間)を観察。⏳
• 記録:
o 写真は「散水範囲→散水中→反応→停止後」の4枚を1セット。
o 室内は吸水紙や「キッチンペーパー+透明テープ」で滴下形状を残す。

 

8. 補助手法(トレーサー・発煙・エンドスコープ)
• 蛍光トレーサー:紫外線ライトで流路を追う。ドレン系統や埋設配管で有効。
• 発煙:室内側から加圧し外部へ漏れを視認(火気厳禁・換気必須)。
• エンドスコープ:笠木内・配管チャンバーの内部確認。復旧性の高い穴位置を選定。

 

9. レポート作成—“誰が見ても同じ結論”へ
• 構成:
1. 表紙(物件概要・調査日・天気・温湿度)
2. サマリー(結論・推奨工法・工期・概算)
3. 調査方法(機器・設定・散水手順)
4. 事実(写真・数値・図面に連番で)
5. 考察(面/線/点の因果)
6. 是正案(納まり図・仕様・検査基準)
• 写真:1枚1キャプション。主語・動詞で「何がどうなった」を明確に。
• 図:水みち矢印/想定上流・下流。検討の跡が残る図は説得力が段違い。

 

10. 安全・近隣対応
• 高所・転落・滑落の対策(親綱・ハーネス・立入禁止)。
• 散水による飛散が近隣・歩行者に及ばない導線計画。
• 室内側の養生・停電対応・避難経路確保。
• 居住中調査では掲示・ポスティング・声かけをセットで。

 

11. ケーススタディ:外壁取り合い×台風時のみの漏水 
• 症状:南面の掃き出しサッシ下で台風時のみ。通常雨では無症状。
• 仮説:負圧吸引+サッシ下レールの毛細管攀登。立上り端末の折返し不足も疑い。
• 調査:
o 夕方のサーモでサッシ下に線状の低温帯。
o 散水(上部から)では再現せず、横吹き散水で10分後に室内側へ滴下。
o 含水は立上り端末〜下端の連続性。
• 是正:サッシ下端の水返し金物新設、立上り200mmの再防水、サッシ両端の二面接着。再現なしで完治。

 

12. 使えるチェックリスト(現場5分)✅
☐ 図面・過去修繕・保証の回収
☐ 屋上・バルコニーの勾配と滞水の確認
☐ 立上り折返し高さ(150〜200mm)
☐ 端末金物・改修ドレン・脱気筒の有無
☐ サッシ周りのシール:二面接着/バックアップ材
☐ 散水の順序計画(上流→下流、15分刻み)
☐ サーモの撮影時間帯(朝夕)と設定メモ
☐ 含水計・温湿度・風速のログ準備
☐ 記録フォーマット(連番写真、A3マップ)

 

13. よくある失敗と回避策 ⚠️
• いきなり全面散水:原因の切り分け不能に。→ 狭域・順序・時間を守る。
• サーモ画像の“色”で判断:温度スケール未設定で誤読。→ 数値・ΔTを注記。
• 居住者への告知不足:苦情・中断・やり直し。→ 掲示+ポスティング+当日声掛け。
• 復旧性を考えない穿孔:信頼失墜。→ 位置合意と復旧計画を先に。

 

14. まとめ—診断は“仮説→検証→記録”の学術プロセス
防水診断の価値は、原因の同定精度と、是正案の実効性にあります。目視・含水・赤外線・散水を順序立てて組み合わせ、再現性で妥当性を証明する。最後は図と数値で意思決定者が迷わない資料に仕上げること。これが、雨漏りゼロへの最短経路です。

 

次回予告:「第3回 勾配・排水計画とドレン納まり」—滞水1mmが寿命を縮める? 勾配形成(モルタル・断熱下地・セルフレベリング)と改修用ドレン・縦樋接続・脱気の要点を、図解イメージで整理します。

中野防水のよもやま話~防水工事の基本と雨漏りのメカニズム~

皆さんこんにちは

中野防水の更新担当の中西です。

 

「雨漏り」は“現象”であって“原因”は一つではありません。素材・納まり・経年・使用環境が連鎖して起こる“合成リスク”です。本編では、どこから水が入り、どう留め、どう管理するかを“現場で役立つ順番”で解説します。

 

1. 防水の役割—構造を濡らさないという設計思想
建物の耐久性は「構造体を濡らさない」ことに尽きます。鉄筋コンクリートは中性化を早め、鉄骨は腐食、木造は腐朽菌・シロアリのリスクが高まります。防水は一次防水(仕上げ)と二次防水(下地・防水層)の二重で考えると理解が早いです。屋根・屋上・バルコニー・開放廊下・浴室のような“常時濡れる場所”は、二次防水(主防水)が主役、サッシ・外壁のような“雨仕舞い中心の場所”は一次防水(仕上げ+板金)を確実にしつつ、二次防水でバックアップする設計が基本です。

 

2. 雨水が入る“道”を知る—面・線・点 の3分類
雨水の侵入は大きく以下の3つに分解できます。 – 面(面状):屋上スラブやバルコニー床など、面全体からの浸透。微細なクラックや防水層の劣化、膜厚不足で起こります。 – 線(線状):シーリング目地、立上りと床の取り合い、笠木ジョイントなどの“線”。動き(伸縮・温度差・風荷重)に追随できず、微開で漏水。 – 点(点状):ドレン、配管貫通部、ビス穴、釘孔、手すり支持金物など。小さな穴1つで大量に入ります。
✅ 現場メモ:調査は「面→線→点」の順で広い方から狭い方へ。散水試験も上流→下流の順。先に“点”だけ塞ぐと、別経路の再現性が消えて原因特定を誤ります。

 

3. 物理現象を押さえる—負圧・毛細管現象・水の滞留 
• 負圧吸引:台風時、風で外壁表面が負圧になり、風下側の隙間から室内方向へ水が吸い込まれます。見た目「逆流」に注意。
• 毛細管現象:0.1〜0.3mmの微細な隙間でも水は横移動します。仕上げの重なり向き・端末の折返し・差し込み寸法が重要。
• 滞留:勾配不足で水が溜まると、紫外線+熱で防水層が劣化加速。藻・埃堆積→微細なピンホール→雨量ピークで漏れる、の流れに。

 

4. 防水工法の全体像—“正解”は一つじゃない
代表的な工法の性質を改修目線で対比します。 – ウレタン塗膜防水(密着/通気緩衝):複雑ディテールに強い。連続被膜で継ぎ目が少ない。含水下地は通気緩衝で逃がす。膜厚管理が命。 – FRP防水:軽量・硬質、ベランダで定番。立上りの折返しが取りやすい。下地動きにやや弱いのでジョイント処理に配慮。 – シート防水(塩ビ・ゴム・TPO):工場製の品質が担保される。溶着・機械的固定で施工スピード◎。複雑形状は納まり検討を厚めに。 – アスファルト防水:信頼性が高く長寿命。熱工法は管理と安全対策が必須。大型屋上や長期保全計画で有力。⬛
選定の軸:①下地の含水・動き②ディテールの複雑さ③既存防水の種類④改修時の騒音・臭気制限⑤歩行・荷重 ⑥予算と保全計画。

 

5. 現場フロー—“段取り八分”の型
1. 事前調査:図面・改修履歴・保証書・漏水履歴を収集。含水率・打診・赤外線・散水の順で仮説を立てる。
2. 仮設・安全:転落・開口・火気・動線分離。住戸・テナントへの告知。養生計画は“水の流れ”も想定。
3. 下地補修:爆裂・脆弱部除去/クラック注入/不陸調整/勾配形成。仕上げの前に水がたまらない形を作る。
4. プライマー:素材・含水率・温湿度で選択。可使時間・塗布量を守る。養生期間は焦らない。
5. 主防水:工法に応じて膜厚・重ね幅・溶着条件を数値で管理。小口の端末と立上りに時間を配分。
6. 端末・役物:ドレン、改修用ドレン、脱気筒、笠木取合い。“出口”の確実性=長寿命。
7. 検査・記録:中間検査→是正→最終検査。写真・膜厚計・溶着試験片・含水ログを残す。
8. 引渡し・保証:使用上の注意、清掃・点検周期、保証範囲。アフター点検の期日を契約書に明記。

 

6. よくある誤解—“塗れば止まる”は危険 ⚠️
• 原因不明のまま全面塗り:再発時に原因追跡が困難。調査費用の“節約”が、後の手戻りコストを増大させます。
• ドレン未改修:既存ドレンの不良を放置して表面だけ更新。漏水は“面”よりも“点”からが多い。
• 立上りの折返し不足:最低でも規定高さ(一般に150mm目安、外部は200mm推奨ケースも)を確保。掃き出しサッシ下端が低い場合は特別納まりを設計。
• 乾燥不十分:含水を閉じ込めると膨れ・剥離。通気緩衝・脱気筒・天候待ちの判断がプロの差。

 

7. チェックリスト—着手前5分で安全・品質UP ✅
☐ 図面・改修履歴・漏水マップの入手/共有
☐ 勾配・滞水箇所・ドレン機能の確認
☐ 含水率・温湿度の計測と記録
☐ 仮設転落防止・立入禁止・火気許可の整備
☐ 下地補修範囲の合意(写真+数量)
☐ 端末・立上り・役物の納まり図承認
☐ 膜厚・溶着・重ね幅等の検査基準設定
☐ 中間・完了検査のスケジュール化(関係者同席)

 

8. ケーススタディ—ベランダ“点漏水”を止める
症状:大雨と強風時のみ、窓際の天井にシミ。通常雨では無症状。
仮説:サッシ周りの線状・点状の複合。風圧でサッシ下端から吸引→バルコニー床の勾配不足で滞水→ドレン周りの防水端末が弱点。
対策: 1. サッシ両端の目地を撤去・再シール(二面接着・背面材管理)。 2. バルコニー床は通気緩衝ウレタンで再防水、立上り200mm確保。 3. 既存ドレンに改修用ドレンを挿入+フランジ溶着。脱気筒を新設。結果:散水再現なし。台風時も無事。原因は“点”+“滞留”の相乗でした。

 

9. コスト・耐用年数・ライフサイクル
• 耐用年数は“材料寿命×使用環境×メンテ”の掛け算。直射日光・滞水・歩行荷重・塩害・寒冷地は劣化促進。
• 見積比較は単価だけでなく、下地補修・端末金物・改修ドレン・脱気・検査記録・保証条件まで総額で。
• 提案の良し悪しは“ディテール図の有無”と“検査の数値化”。図と数値が弱い見積は、再発リスクを価格に転嫁していない可能性。

 

10. FAQ よくある質問 ‍♀️
Q1. 雨漏り箇所の真上を直せば止まりますか?
A. いいえ。水は“上流”から回り込みます。調査は広く、対策は上流から。
Q2. 梅雨時は施工できますか?
A. 可能な工法もありますが、乾燥・養生時間を厳守。通気緩衝×脱気でリスク低減。天候リードタイムを計画に組み込みましょう。⛅
Q3. どの工法が一番長持ち?
A. 条件次第。大型屋上ならシート・アスファルト、複雑なベランダならウレタンが有利など、“適材適所”が最長寿命の近道。

 

11. まとめ—防水は“水のデザイン”
目に見える仕上げよりも、水の入り方・流れ方・出し方をデザインするのが防水です。原因を面・線・点で分解し、上流から順に潰す。勾配とドレンを整え、端末・立上りを丁寧に。数値で検査し、記録を残す。これが“雨漏りゼロ設計”の基本形です。

 

次回予告(概略):「下地調査と雨漏り診断」—赤外線は“万能の証拠”ではありません。目視→打診→含水→赤外線→散水の順で仮説検証。散水は上流から、写真と計測値で“再現性”を記録します。

________________________________________

 

お問い合わせ・ご相談 ✉️
「自宅や物件で雨漏りが不安」「見積を比較したい」「図面上で納まりを検討したい」など、お気軽にご相談ください。現場で使えるチェックリストやディテール図のひな形もご用意できます。✨