
皆さんこんにちは
中野防水の更新担当の中西です。
調査のゴールは「原因の一次仮説を立て、再現性で検証し、是正案を図と数値で示す」こと。勘と経験だけに頼らず、段取りと記録で再現性を担保します。
1. 調査の原則と考え方
• 上流から下流へ:屋根→立上り→端末→面→ドレン→室内の順。先に室内だけ止めても本質的な解決にならない。
• 面・線・点の分解:面(床・屋根)/線(目地・取り合い)/点(ドレン・貫通)を分けて仮説化。
• 再現性:散水・採水・温湿計・含水計の値で“ビフォー/アフター”を比較し、因果関係を示す。
• 安全最優先:高所・感電・滑落・火気・居住者動線。調査そのものがリスクにならないように。
2. 事前ヒアリングと資料収集
• ヒアリング:いつから/どの雨(強風・台風・長雨)/どこに症状(天井・壁・サッシ)/季節性/時間差(雨後数時間)⏱️
• 資料:平立断の図面、過去の修繕履歴、保証書、赤外線・散水の過去結果、サーモ画像の原データ。
• 環境情報:建物方位、近隣高層の風影響、海岸・寒冷・多雪、屋上利用(歩行・荷重)。
コツ:居住者のスマホ写真・動画は宝の山。Exifの日時と天気(気象庁履歴)を突き合わせ、雨種(積乱雲のスコール/台風の横殴り)を同定します。
3. 調査計画(ITP:Inspection & Test Plan)
1. 仮説A:立上り折り返し不足+滞水 → 散水1:立上り→床→ドレンの順で15分区切り。
2. 仮説B:サッシ下端からの負圧吸引 → 散水2:風下想定でサッシ上部から順灌水。
3. 仮説C:ドレン鉛直継手のピンホール → 散水3:ドレン鉛直のみ局所散水+着色水。
• 計測・記録:温湿度、表面温、含水率、写真(広角→寄り)、動画(滴下・流路)。
• 合否基準:症状部での滴下再現/含水率上昇/サーモの温度差出現/散水停止後の遅延反応。✅
4. 目視・触診・打診(一次スクリーニング)
• 目視:ひび割れ(静的/動的)、ピンホール、チョーキング、膨れ、端末剥離、重ね代、溶着ビードの連続性。
• 触診:立上り端末の浮き、シールの硬化・三面接着、下地の柔らかさ(含水・腐朽の兆候)。
• 打診:中空音=脆弱下地/浮き。タイル・モルタル・押えコンクリートで有効。
記録テンプレ:A3図面に「赤=劣化、青=推定水みち、緑=調査済」を色分けし、通し番号(#001〜)で写真と連携。
5. 含水調査・計測機器の使い分け
• ピン式水分計:木部・石膏ボードなどの相対比較。仕上げを傷つける可能性。
• 非破壊式(電磁波):床・壁の相対的な分布把握に有効。膜厚や金属で誤差。
• コア抜き・採水:最終手段。位置と復旧の合意を事前に。
• 温湿度・風速:散水時の条件ログ。台風時の再現は難しいが、負圧箱や送風で傾向を作れる場合あり。
6. 赤外線サーモグラフィの使いどころ
• 原理:含水部は蒸発冷却・熱容量差で温度分布が変わる。朝夕の温度勾配が出る時間帯が最適。
• 撮影条件:
o 直射日光の反射を避ける(早朝/夕方)。
o 風速が低い日(風で表面温が均される)。
o エミッタンス:塩ビ・ゴム・ウレタン・FRPで0.90〜0.95を目安に設定。※機種により名称差あり。
o 温度差(ΔT)5℃以上が望ましい。
• 誤判定あるある:
o 塗り重ね差・色差→温度差に見える。
o 直射で温められた笠木・金物の反射。
o 風下面の“陰”が冷たく映る。
• 判定のコツ:サーモだけで断定しない。含水計・散水の反応と突き合わせ、水みちの連続性で見る。
7. 散水試験の組み立て(再現性が命)
• 準備:
o 養生(室内・電気設備・配線)。
o 2人以上の体制(散水担当/記録担当)。
o タイマー・無線・着色剤(食紅系)・紙テープ(散水範囲マーキング)。
• 順序:
1. 最上流(立上り・笠木)から15分。
2. 取り合い(サッシ・目地)15分。
3. 面(床)→ドレン周り15〜30分。
• ポイント:
o 一度に広く濡らさない(原因特定が曖昧に)。
o 反応が出たら即停止し、範囲を絞って再現。
o 雨後の遅延(数十分〜数時間)を観察。⏳
• 記録:
o 写真は「散水範囲→散水中→反応→停止後」の4枚を1セット。
o 室内は吸水紙や「キッチンペーパー+透明テープ」で滴下形状を残す。
8. 補助手法(トレーサー・発煙・エンドスコープ)
• 蛍光トレーサー:紫外線ライトで流路を追う。ドレン系統や埋設配管で有効。
• 発煙:室内側から加圧し外部へ漏れを視認(火気厳禁・換気必須)。
• エンドスコープ:笠木内・配管チャンバーの内部確認。復旧性の高い穴位置を選定。
9. レポート作成—“誰が見ても同じ結論”へ
• 構成:
1. 表紙(物件概要・調査日・天気・温湿度)
2. サマリー(結論・推奨工法・工期・概算)
3. 調査方法(機器・設定・散水手順)
4. 事実(写真・数値・図面に連番で)
5. 考察(面/線/点の因果)
6. 是正案(納まり図・仕様・検査基準)
• 写真:1枚1キャプション。主語・動詞で「何がどうなった」を明確に。
• 図:水みち矢印/想定上流・下流。検討の跡が残る図は説得力が段違い。
10. 安全・近隣対応
• 高所・転落・滑落の対策(親綱・ハーネス・立入禁止)。
• 散水による飛散が近隣・歩行者に及ばない導線計画。
• 室内側の養生・停電対応・避難経路確保。
• 居住中調査では掲示・ポスティング・声かけをセットで。
11. ケーススタディ:外壁取り合い×台風時のみの漏水
• 症状:南面の掃き出しサッシ下で台風時のみ。通常雨では無症状。
• 仮説:負圧吸引+サッシ下レールの毛細管攀登。立上り端末の折返し不足も疑い。
• 調査:
o 夕方のサーモでサッシ下に線状の低温帯。
o 散水(上部から)では再現せず、横吹き散水で10分後に室内側へ滴下。
o 含水は立上り端末〜下端の連続性。
• 是正:サッシ下端の水返し金物新設、立上り200mmの再防水、サッシ両端の二面接着。再現なしで完治。
12. 使えるチェックリスト(現場5分)✅
☐ 図面・過去修繕・保証の回収
☐ 屋上・バルコニーの勾配と滞水の確認
☐ 立上り折返し高さ(150〜200mm)
☐ 端末金物・改修ドレン・脱気筒の有無
☐ サッシ周りのシール:二面接着/バックアップ材
☐ 散水の順序計画(上流→下流、15分刻み)
☐ サーモの撮影時間帯(朝夕)と設定メモ
☐ 含水計・温湿度・風速のログ準備
☐ 記録フォーマット(連番写真、A3マップ)
13. よくある失敗と回避策 ⚠️
• いきなり全面散水:原因の切り分け不能に。→ 狭域・順序・時間を守る。
• サーモ画像の“色”で判断:温度スケール未設定で誤読。→ 数値・ΔTを注記。
• 居住者への告知不足:苦情・中断・やり直し。→ 掲示+ポスティング+当日声掛け。
• 復旧性を考えない穿孔:信頼失墜。→ 位置合意と復旧計画を先に。
14. まとめ—診断は“仮説→検証→記録”の学術プロセス
防水診断の価値は、原因の同定精度と、是正案の実効性にあります。目視・含水・赤外線・散水を順序立てて組み合わせ、再現性で妥当性を証明する。最後は図と数値で意思決定者が迷わない資料に仕上げること。これが、雨漏りゼロへの最短経路です。
次回予告:「第3回 勾配・排水計画とドレン納まり」—滞水1mmが寿命を縮める? 勾配形成(モルタル・断熱下地・セルフレベリング)と改修用ドレン・縦樋接続・脱気の要点を、図解イメージで整理します。